無料化する時代の流れにぼくたち作家はこれまで以上に頭を使わなければ生き残れない。

漫画家が飢えて死ぬか、読者が飢えて死ぬか。というタイトルのtwitterまとめがある。詳細は読んで頂ければわかるが、この不毛な議論の面白いところは、この時代に作家がどう戦うべきかということを考えさせられる点だ。

このまとめで問題になった「マンガ共有サイト」をはじめ、youtubeなどの「動画共有サイト」、モバゲーやGREEといった「無料ゲームサイト」等々の隆盛を見れば瞭然であるが、もはやマンガのみならず、コンテンツはすべからく無料化していて、この流れには誰も逆らえない。フリーミアムという言葉が流行るくらい、どちらかというとちょっと求められていることですらあるように感じられる。

無料で利用できるのに、有料システムを利用する消費者がいるだろうか。自分の身体に入れるものならともかく、コンテンツなど消費するだけしか用がないものに対して、できるなら金を払いたくないと考える消費者のほうが圧倒的多数の筈だ。作家への敬意の問題ではなく、それが消費者の心理である。

昨年ロスアンジェルスに仕事で行った際、時間があったので現地のDVD販売ショップに連れて行ってもらった。そこは驚くべきことに、すべてが海賊版だった。日本のアニメ、中国のアクション、ぼくのホラー映画、勿論ハリウッド大作まで、DVD-Rに盤面印刷し、トールケースにコピーしたパッケージを挟み込んで、激安のDVDとして売っていたのだ。だからといって、店主を問いつめたりするのは野暮だ。それが、彼らの消費生活のリアルなのだ。高いものは買わない。コンテンツの真偽は内容であってパッケージではないのだ。中身が同じなら、安い方が良いに決まっている。誰だってそう思う。日本人なら、ブランド品を出来るだけ安く購入したいがために色々な方策を採ってきた過去を見ればわかるはずだ。その結果偽物を掴まされて泣きを見るものもいるが、幸か不幸か、コンテンツにはそれがない。せいぜい「放送を録画」した際に入る速報テロップが画面を横切るくらいで、そこで初めて「これは海賊版だったのか」と気付く人もいる。

なぜ海外の話を持ち出したかというと、ぼくはその海賊版DVDショップで思い知ったからだ。光回線で世界中が繋がってほんの数分でどんなコンテンツでもコピー配布出来る今、飛行機で十時間もかけてロスと日本を往復し、海賊版を取り締まったり、正規版を売りに行く──そんな行為がいかにバカバカしいか。ぼくは日本にいて、日本で映画を作っていたから、アメリカでホラーがもてはやされているなんて話を真に受けていたけれど(それは一部事実だけれども)、その割に利益に繋がらない理由が明白にわかった。そのDVDショップだけではなかった。別の日本人経営のショップも数件回ったが、同様だった。それどころか、さすが日本人のきめ細かさで、日本で放送中の連続ドラマ最新話がVHSとDVDで置いてあるくらい気が利いている。あれだけ権利に小うるさいハリウッドのお膝元でそうなのだから、世界各地がどうなのかは、想像するに難くない。

これは単にモラルの低下、という言葉だけでは済まされない。モラルそのものが崩壊しているのだから、低下もへったくれもないのだ。

問われるべきは、そうしたモラルや消費者心理ではなく、この「無料化する時代の流れ」に乗りながらも利益を出していくことができない会社や作家の怠慢であると、ぼくはこの際断言したいのである。

消費者を問いつめても何も解決しない。刑罰を重くしたところで、捕まるのはせいぜい数人で、自分には害がないと思う。それもまた消費者心理なのであって、自分だけは許されるのだという意識で行動していると見なければ、到底理解できないハメになる。

映画の冒頭や、ゲームの冒頭、マンガのあちこちにも、違法アップロードやダウンロードに関する注意書きが増えてきたが、あんなもので本当になくなると思っているのだろうか? 創り手であるぼく自身が、まったく思っていない。まったくなくなるイメージが出来ない。そんなことでなくなるくらい「良心」が残っているなら、こんな状況にはなっていないのだ。

したがって、作家や会社は、コンテンツ自体は無料で配信し、その中で利益回収する仕組みを模索するか、中古や違法行為を見越して、単価をドカンと上げるしか方法がない。

そうでなければ違法者を根こそぎ突き止めてとっちめるしかない。

作家は自分の身を自分で守らねばならないのだから、消費者の良心に生活を委ねては負けと思う覚悟が必要だと思う。従来のやり方が通用しなくなっているなら、従来にはないやり方に挑戦しなくては。みんなそうやって生き残ってきたのだから。お金を払わない消費者が悪い、というのは理屈であり一般論だと自覚しようじゃないか。現実はお金を払わない人がいっぱいいる。すべてが無料化していくのなら、お金を払わない消費者が大半になる日も近い。しかし希望はある。テレビだって無料で見ているし、Facebookだってgoogleだってぼくたちは無料で消費している。

彼らは食い詰めて死んだだろうか?